工場で使って汚れた水

工場排水とは、工場や事業所などから排出される汚水のことを指します。
工業排水には洗剤やよごれのほかにたくさんの化学薬品が混じっており、中には水銀やカドミウムなど、生物に有害な物質をふくんでいる場合があるのです。
機械加工や食品加工の工場などでは、洗浄、冷却、精製などに大量の水を使用し、有害汚染物質を含んだその汚水は、工場排水として下水道や公共水域に排出されます。

そのため、産業発展と比例して、川や海、土壌、地下水などの環境汚染が激しくなる傾向にあり、工業排水に関する整備や制度が追いついていないと、農漁業への悪影響や環境汚染、公害に繋がることもあります。

高度経済成長期の1950年代に入ると、河川や湖沼などの公共用水域の水質汚染が顕著となり、水俣病やイタイイタイ病などの公害病が社会問題に発展するようになりました。
その後に、1958年に本州製紙の工場排水による漁業被害をめぐって、漁民と工場側の乱闘事件が発生したことを契機に、水質汚濁防止法の必要性が認識され「旧水質二法」が制定されたのです。
この排水を何も処理しないまま河川や海、湖、地下水へ流出させると、どうなるでしょうか?
自然環境や私たちの生活に悪影響を及ぼしてしまうことは、想像に難くありません。
工業生産において世界的にも大きく貢献している日本にとって、排水処理は非常に重要な責任です。

 

 

現代の日本における工場排水の新たな課題

日本の重要な産業のひとつに半導体があります。世界3位のシェアを誇る日本の半導体市場ですが、その製造工程において薬品を使用した洗浄は欠かせません。
スマホの半導体や液晶パネル、ICやセンサーなどが現在も大量に生産されていますが、人工知能などの普及に伴って半導体の需要増大が見込まれているため、製造工程で使用される化学物質や化学薬品の急増による水質悪化が懸念されているのです。
規制が厳しい日本では、これらの排水は様々な排水処理システムで処理された上で、工場内での再利用や排水に回されていますが、増大する薬品と排水量に対応するための新技術や対策が求められています。
半導体工場をはじめ、大企業の国内工場建設計画が相次いでいて、地方の工業化が急速に進むことが予想されます。
そういった場所に大規模な工場が建設されれば、十分に浄化されない工場排水が水質を悪化させる可能性があります。
また、工場が増えれば住民も増加して、生活排水に対しても、これまで以上の処理能力が必要となるでしょう。

 

各種工場から排出される工場排水に対して、全国の行政機関では水質汚濁などの環境汚染を防ぐため、水質汚濁防止法や様々な条例によって水質規制を行なっています。
各種工場では工場排水に含まれる指定物質が規定値内に収まるようにする排水処理設備を設け、基準値内にした上で排出します。
法規制の厳罰化、各都道府県の独自規制、下水道整備の充実、排水処理の新技術開発など、新たな課題に対応できる施策が求められています。

 

まとめ

工場排水は、高度経済成長期の社会問題をきっかけに規制が強化され、改善傾向にあります。
しかし、産業の成長に伴う薬品使用量や排水量の増加、福島原発事故の処理水問題など、新たな課題も顕在化しています。
これらの解決には、現行の法規制や技術力では力不足であり、対応できる法規作りや新技術開発が急務といえます。

排水処理

排水処理とは、製品の製造過程で排出される汚濁物を含んだ水を、環境負荷が低いレベルになるよう処理することを指します。
工場から排出される水には、さまざまな汚染物質が含まれています。
仮にこの水を、何も処理をしないまま河川や海、地下水などに流してしまうと、自然環境や地域住民の生活に悪影響をおよぼしてしまいます。

こうした事故が起こってしまうと、工場の操業停止などの行政処分だけでなく、報道により企業の名前が出ることで社会的な信用を失い、経営に大きなダメージを受けることになりかねません。

工場排水を適切に処理することは、社会に対する責任であることはもちろん、企業の安定経営という視点でも重要なのです。
工場から排出される水が環境汚染を引き起こさないよう、国や自治体では河川や海の水をモニタリングしており、汚染物質の量が規定値を超えていないかを定期的にチェックしています。
工場では常に同じ製品を一定量生産しているわけではなく、経営状況や世間の消費者のニーズに合わせて生産品目や生産量が変わります。
これにより、工場排水の量も変わることになります。
このため、国や自治体で決められた規定値を守るためには数値ギリギリにおさえるようにするのではなく、より厳しい社内基準を設けて、生産量が変動しても環境に悪影響を与えることがないように運営していくことが重要になるのです。